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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第8章 すれ違い

 香花は不思議な少女だ。表情がくるくると絶え間なく変わり、一緒にいて飽きない。あの女にやはりとてもよく似ている。外見ではなく、心の奥深い部分で似ているのだ。
 外見なら、香花の方がよほど美しい。どちらかといえば、あの女は平凡な顔立ちで、香花のように人眼を引く可憐で華やかな美少女ではなかった。
 コンコンコン、トントントン。
 コンコンコン、コンコンコン。
 光王は、砧を打つ香花の姿に眼を細める。
 この女を自分だけのものにしておきたい。冴え冴えときらめく黒い瞳に自分だけを映したい。他の男を映すのは許せない。
 それがとても理不尽で身勝手な想いだと知りつつ、この眼前の少女を、その心を独り占めしたいという欲求に逆らえない。
 コンコンコン、トントントン。
 コンコンコン、トントントン。
 規則正しい音がまるで眠りを誘う子守歌のようだ。そういえば、自分はかつて幼かった頃、母の子守歌を聴いたことがあっただろうか。
 幸せだと思った。
 愛する女の傍らで寝転がり、女の打つ砧の音を聞きながら、微睡みに落ちる。
 この幸せがずっと続けば良い。
 たとえ女の心が自分には向いていないのだとしても、この夫婦ごっこのような暮らしが永遠に続いてゆけば良いのにと思ってしまう。

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