月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第9章 燕の歌
燕の歌
風に乗って、そこはかとなき香りが漂い流れてくる。
香花はチマが汚れるのにも頓着せず、地面に座り込み、空を見上げていた。梅の樹の根許に座っているので、花の香りが間近に感じられるのだ。
折しも頭上の樹は満開で、薄紅色の可愛らしい花を幾つもつけている。
暦は既に二月に入っていた。不思議なもので、新しい年になり、二月にもなると、随分と陽差しがやわらいでくるように見える。まだ真冬といって差し支えない季節なのに、陽差しもやや強さを取り戻したように思えるのだ。
春になると、様々な花が一斉に咲き匂う。開いた花は冬の間は灰色に塗り込められていた枯れ野を華やかに彩る。春という季節そのものも良いけれど、多分、春を待ち侘びる間のときめきが人の心に希望を与えるのだろう。恋人に逢っている最中も幸せだが、逢える日までを指折り数えて待つ―あの心のときめきにも似ている。
風に乗って、そこはかとなき香りが漂い流れてくる。
香花はチマが汚れるのにも頓着せず、地面に座り込み、空を見上げていた。梅の樹の根許に座っているので、花の香りが間近に感じられるのだ。
折しも頭上の樹は満開で、薄紅色の可愛らしい花を幾つもつけている。
暦は既に二月に入っていた。不思議なもので、新しい年になり、二月にもなると、随分と陽差しがやわらいでくるように見える。まだ真冬といって差し支えない季節なのに、陽差しもやや強さを取り戻したように思えるのだ。
春になると、様々な花が一斉に咲き匂う。開いた花は冬の間は灰色に塗り込められていた枯れ野を華やかに彩る。春という季節そのものも良いけれど、多分、春を待ち侘びる間のときめきが人の心に希望を与えるのだろう。恋人に逢っている最中も幸せだが、逢える日までを指折り数えて待つ―あの心のときめきにも似ている。