月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第9章 燕の歌
香花がふいに黙り込んだのを見て、知勇は慌てた。
「済まない、いつかは話したくなったときに事情を話して欲しいなどと言ったのに、立ち入ったことまで訊ねてしまった。無礼を許してくれ」
香花は首を振った。
「良いのです。確かに私の家は両班の家柄ですが、家門はさして高くはなく、しかも父が一年前に亡くなってしまったので、今は跡を継ぐ者が誰もいないのです。このままでは、やがて家門は絶えるでしょう」
知勇がふいに身を乗り出した。
「もし、もしもの話だが、香花、私が父に願い出て許しを得た上でなら、私がそなたの実家の家門を継ぐことはできないだろうか?」
「あの、それは、どういう―」
香花が戸惑い顔を見せるのに、知勇は少し照れ臭そうに笑う。
「私がそなたを妻とし、実家の家門を継ぐという話をしているのだ」
つまり、遠回しな求婚ということになる。
香花の白い頬が染まった。
「私のような者にそこまで仰って頂けるのは光栄です。でも、私には生涯の想い人がいます。既に亡くなられていますが、私の心は既にその方に捧げました。それゆえ、私はこれからの生涯をどなたにも嫁ぐ気はありません」
「済まない、いつかは話したくなったときに事情を話して欲しいなどと言ったのに、立ち入ったことまで訊ねてしまった。無礼を許してくれ」
香花は首を振った。
「良いのです。確かに私の家は両班の家柄ですが、家門はさして高くはなく、しかも父が一年前に亡くなってしまったので、今は跡を継ぐ者が誰もいないのです。このままでは、やがて家門は絶えるでしょう」
知勇がふいに身を乗り出した。
「もし、もしもの話だが、香花、私が父に願い出て許しを得た上でなら、私がそなたの実家の家門を継ぐことはできないだろうか?」
「あの、それは、どういう―」
香花が戸惑い顔を見せるのに、知勇は少し照れ臭そうに笑う。
「私がそなたを妻とし、実家の家門を継ぐという話をしているのだ」
つまり、遠回しな求婚ということになる。
香花の白い頬が染まった。
「私のような者にそこまで仰って頂けるのは光栄です。でも、私には生涯の想い人がいます。既に亡くなられていますが、私の心は既にその方に捧げました。それゆえ、私はこれからの生涯をどなたにも嫁ぐ気はありません」