
月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第9章 燕の歌
「若さま、それは何かの歌ですよね」
歌い終えた知勇に訊ねると、彼は、いつもの物柔らかな笑みで頷く。
「この地方に伝わる民話だよ」
この歌には哀しい伝説が秘められているんだ。
知勇はそう言って、その伝説を話してくれた。
「昔、美しい少女に若者が恋したが、実はその少女は人間に姿を変えた燕だった。燕となって飛び立った恋人を哀しんで、若者が歌った歌だ」
知勇は香花に聞かせるというよりは、自らに言い聞かせるように呟き。
つと振り向き、香花を見た。
「歌い手は燕(ヤンツィ)という名の少女に語りかける。少女の明るい瞳、優美なうなじ、長い髪を讃え、その歌を万感の想いを込めて彼女に贈った」
知勇の手が伸び、そっと香花の艶やかな黒髪に触れる。
「私の小燕(ソジェビ)」
その呼びかけが愛おしげな響きを帯びているようなのは、自分の気のせい、考え過ぎだっただろうか。
「私の小燕」
切なげな熱のこもった瞳で見つめられ、香花は思わず頬が熱くなる。
こんな風に、こんな眼で見ないで欲しい。
歌い終えた知勇に訊ねると、彼は、いつもの物柔らかな笑みで頷く。
「この地方に伝わる民話だよ」
この歌には哀しい伝説が秘められているんだ。
知勇はそう言って、その伝説を話してくれた。
「昔、美しい少女に若者が恋したが、実はその少女は人間に姿を変えた燕だった。燕となって飛び立った恋人を哀しんで、若者が歌った歌だ」
知勇は香花に聞かせるというよりは、自らに言い聞かせるように呟き。
つと振り向き、香花を見た。
「歌い手は燕(ヤンツィ)という名の少女に語りかける。少女の明るい瞳、優美なうなじ、長い髪を讃え、その歌を万感の想いを込めて彼女に贈った」
知勇の手が伸び、そっと香花の艶やかな黒髪に触れる。
「私の小燕(ソジェビ)」
その呼びかけが愛おしげな響きを帯びているようなのは、自分の気のせい、考え過ぎだっただろうか。
「私の小燕」
切なげな熱のこもった瞳で見つめられ、香花は思わず頬が熱くなる。
こんな風に、こんな眼で見ないで欲しい。
