
月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第9章 燕の歌
知勇の手が静かに離れる。
「どうか約束を忘れたり心変わりをしないで。私はあなたのもの、あなたは私の燕」
再び玲瓏とした声が辺りに散ってゆく。
どこまでも際限なく続く蒼空を仰ぎながら、知勇は飽きることなく同じ歌を口ずさみ続ける。
春の陽光が知勇の端整な姿を包み込んでいる。一瞬、その姿が透明な陽差しに透けて見えるような錯覚に囚われ、香花は小さく叫んだ。
「若さま?」
何故か、胸騒ぎがしてならない。
まるであの一瞬、知勇の身体が春の光にそのまま溶けて儚く消えてしまうのではないかと思ってしまったほどの恐怖と不安だった。
知勇は細身ではあるけれど、上背もあるし、けして軟弱な優男ではない。そんな彼がひと刹那の中に消えていなくなることなど、現実にはありもしないのに。
自分は一体、何を見、何に怯えているのだろう。
「どうか約束を忘れたり心変わりをしないで。私はあなたのもの、あなたは私の燕」
再び玲瓏とした声が辺りに散ってゆく。
どこまでも際限なく続く蒼空を仰ぎながら、知勇は飽きることなく同じ歌を口ずさみ続ける。
春の陽光が知勇の端整な姿を包み込んでいる。一瞬、その姿が透明な陽差しに透けて見えるような錯覚に囚われ、香花は小さく叫んだ。
「若さま?」
何故か、胸騒ぎがしてならない。
まるであの一瞬、知勇の身体が春の光にそのまま溶けて儚く消えてしまうのではないかと思ってしまったほどの恐怖と不安だった。
知勇は細身ではあるけれど、上背もあるし、けして軟弱な優男ではない。そんな彼がひと刹那の中に消えていなくなることなど、現実にはありもしないのに。
自分は一体、何を見、何に怯えているのだろう。
