
月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第9章 燕の歌
外側からコホンと咳払いをすると、ほどなく声がピタリと止んだ。入り口の戸が開き、父が顔を覗かせる。
「何だ」
若い妾とのお愉しみの真っ最中を邪魔され、明らかに不機嫌である。しかし、知勇は構わず父に言った。
「父上、少しお話がございます」
「話? そのようなものなら、明日で良かろう」
使道―全正史は憮然として言い放った。
だが、知勇も今夜ばかりは譲らない。
「いえ、大切なお話にて、是非にもお願い致しとうございます」
それでも父が頷かないのに業を煮やした知勇はさっさと靴を脱いで廊下に上がり、音を立てて父の背後の戸を開けた。
「おい、お前ッ。何をする!」
正史が声を荒げても、知勇はいささかも怯まない。
息子が急に踏み込んできて、若い妾は悲鳴を上げた。むろん、事のただ中とて、一糸まとわぬ、あられもない姿である。父のだらしなく衿許をくつろげた姿も、息子としては堪えられない。
知勇はあたかも汚いものでも見るかのまなざしで女を一瞥し、顎をしゃくった。
「そなたは向こうに行っていろ」
女は正史と知勇の両方を窺うように上目遣いに眺めている。
「何だ」
若い妾とのお愉しみの真っ最中を邪魔され、明らかに不機嫌である。しかし、知勇は構わず父に言った。
「父上、少しお話がございます」
「話? そのようなものなら、明日で良かろう」
使道―全正史は憮然として言い放った。
だが、知勇も今夜ばかりは譲らない。
「いえ、大切なお話にて、是非にもお願い致しとうございます」
それでも父が頷かないのに業を煮やした知勇はさっさと靴を脱いで廊下に上がり、音を立てて父の背後の戸を開けた。
「おい、お前ッ。何をする!」
正史が声を荒げても、知勇はいささかも怯まない。
息子が急に踏み込んできて、若い妾は悲鳴を上げた。むろん、事のただ中とて、一糸まとわぬ、あられもない姿である。父のだらしなく衿許をくつろげた姿も、息子としては堪えられない。
知勇はあたかも汚いものでも見るかのまなざしで女を一瞥し、顎をしゃくった。
「そなたは向こうに行っていろ」
女は正史と知勇の両方を窺うように上目遣いに眺めている。
