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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第9章 燕の歌

 使道を務めていた全正史が突如として亡くなり、その屋敷までが全焼したという事件は滅多に事件らしい事件の起こらない地方の町や村に大きな衝撃と話題を呼んだ。
 しかも、その死に方が尋常ではない。が、とかくその酷い所業で恨まれていた正史の死は民衆に悼みよりはむしろ、歓喜でもって迎えられた―というのが実状であった。また、憎まれていた正史にひきかえ、非業の死を遂げたその息子知勇に同情する声は多かった。
 知勇の優しく高潔な人柄を惜しむ人は少なくなかったのである。
 次の新しい府使が赴任してくるまでは、丁度、町に滞在中であった監察御使が臨時で兼任することになった。
 何でも監察御使は、もう二年も前から町に潜入していたとのことだが、何しろ誰もそんなお偉方の顔などろくに見たこともないし、知らない。
 今回の一件は監察御使が動き出すまさにその寸前に、使道が息子に殺されるという予想外の結果となって終わった。全正史の悪行の数々の片棒を担ぎ、米の不正売買をしていた商人超全徳は捕らえられ、州の役所に送られ、詮議の上、極刑が決まった。
 

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