
月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第9章 燕の歌
更に、前任の使道が亡くなった二ヵ月後、新しい使道が都から派遣されてきた。今度の使道は六十前の老齢だが、その穏やかな風貌は仙人を彷彿とさせ、事実、見かけどおり、その気質も温厚であるとのことで、領民一同は皆、胸を撫で下ろした。
新しい使道が赴任したのと入れ替わるように、監察御使が漢陽に帰還することになった。
無事、王命を果たし終えた今、監察御使は晴れて、その素顔を白日の下に晒すことが許される。潜入する際は、その役目柄、身分を偽り姿を変えるが、この地を去るに際しては、もう何をはばかることもない。
大勢の伴に護られ賑々しい行列を組んで出発しようとする監察御使をひとめ見ようと、ここら一体の領民が町に押しかけた。
先頭のひときわ見事な栗毛にまたがり、いかにも威風堂々とした都のエリート役人ぶりの男がその監察御使である。
見送りに集まっていた者たちの中で、その監察御使こそがあのジャンインだと気付いた者が何人いただろうか。髭もそり落とし、随分とこざっぱりしているその姿には、職人に身をやつしていたときの面影は全くない。
「まさか、こういうことだったなんて思ってもみなかった」
見送りの群衆の中に紛れた香花は、そっと隣の光王に囁く。
新しい使道が赴任したのと入れ替わるように、監察御使が漢陽に帰還することになった。
無事、王命を果たし終えた今、監察御使は晴れて、その素顔を白日の下に晒すことが許される。潜入する際は、その役目柄、身分を偽り姿を変えるが、この地を去るに際しては、もう何をはばかることもない。
大勢の伴に護られ賑々しい行列を組んで出発しようとする監察御使をひとめ見ようと、ここら一体の領民が町に押しかけた。
先頭のひときわ見事な栗毛にまたがり、いかにも威風堂々とした都のエリート役人ぶりの男がその監察御使である。
見送りに集まっていた者たちの中で、その監察御使こそがあのジャンインだと気付いた者が何人いただろうか。髭もそり落とし、随分とこざっぱりしているその姿には、職人に身をやつしていたときの面影は全くない。
「まさか、こういうことだったなんて思ってもみなかった」
見送りの群衆の中に紛れた香花は、そっと隣の光王に囁く。
