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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第9章 燕の歌

 あのときは四十を過ぎていると思ったが、ジャンイン、いや、監察御使申(シン)潤(ユン)誠(ソン)は、まだ三十を過ぎたばかりといったところだろう。
 どうやら、光王自身はジャンインの正体をとうに見破っていたらしい。だからこそ、寸でのところで前任の使道全正史殺害を断念したのだと言った。
―流石に監察御使が相手じゃ、勝ち目はないものな。それにしても、監察御使さまが飾り職人紛いのことまでやっちまうとは、隠密になるのも楽じゃねえ。
 と、いかにも彼らしく不敵に笑っていた。
 丁度、監察御使の一行が香花と光王の前を通りかかった。見送り人の最前列に並んでいた光王を監察御使がちらりと見、馬上から軽く黙礼をする。
 光王もまた、軽く頭を下げ、これに応じる。
 とはいっても、この二人の大物のやりとりを見た者は香花以外にはいないだろう。それほど、二人だけに通じる、あっという間の素早い応答であった。

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