
月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第10章 第三話【名もなき花】・少年の悲哀
良人である両班が腰を押さえてさすりながら〝哀號(アイゴー)、哀號(アイゴー)〟と泣き喚くシーンでは、見物人たちの間から思わず失笑が洩れる。
身分差の烈しい朝鮮では王や王族、両班といった支配者層の権威は絶対的なものがあった。庶民は常に虐げられ、搾取されてきた。
今、この仮面劇をいかにも愉快そうに眺めている人々の大半はそういった被支配者層の民たちだ。彼らにしてみれば、日頃から自分たちを苦しめている両班が人眼もはばからず哀れっぽく泣いている様を見るのは、まさに溜飲の下がる想いだろう。
よもや、その笑いと興奮に包まれた人々の輪から少し離れた場所―物陰から輿に乗ってふんぞり返った本物の両班が苦々しげに一部始終を眺めていることなど誰一人として知るはずもなかった。
騒々しいシンバルが漸く鳴り終わると、いきなり水を打ったような静寂が訪れる。よほどの浮気者なのか、それとも、たった今の芝居に心に思い当たる節がなきにしもあらずか、職人風の中年男が傍らの女房と思しき女に耳をぎゅうぎゅうと引っ張られ、顔をしかめている。
身分差の烈しい朝鮮では王や王族、両班といった支配者層の権威は絶対的なものがあった。庶民は常に虐げられ、搾取されてきた。
今、この仮面劇をいかにも愉快そうに眺めている人々の大半はそういった被支配者層の民たちだ。彼らにしてみれば、日頃から自分たちを苦しめている両班が人眼もはばからず哀れっぽく泣いている様を見るのは、まさに溜飲の下がる想いだろう。
よもや、その笑いと興奮に包まれた人々の輪から少し離れた場所―物陰から輿に乗ってふんぞり返った本物の両班が苦々しげに一部始終を眺めていることなど誰一人として知るはずもなかった。
騒々しいシンバルが漸く鳴り終わると、いきなり水を打ったような静寂が訪れる。よほどの浮気者なのか、それとも、たった今の芝居に心に思い当たる節がなきにしもあらずか、職人風の中年男が傍らの女房と思しき女に耳をぎゅうぎゅうと引っ張られ、顔をしかめている。
