テキストサイズ

月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第10章 第三話【名もなき花】・少年の悲哀

 〝痛(いて)ェ、痛ェじゃねえかよう〟と悲鳴を上げる男の耳に女房は〝あんたもあの旦那のようになりたくなかったら、もう少しは反省することだ〟と怒鳴っている。
 しかし、そんな二人も突如として訪れた静けさに気圧されたのか、互いに顔を見合わせ口をつぐんだ。旅の一座の親方が朗々とした声を張り上げる。
「さて、これから皆さまにお目にかけますのは、我が一座きっての花形景(キヨン)福(ボク)のナイフ投げでございます!!」
 再び賑々しいシンバル、更に笛や太鼓が入り乱れての音楽が流れ始める中、二人の少年が登場する。
 背の高い方は十三、四歳くらい、まだ小柄な方はどう見てもせいぜいが八歳前後だ。眼鼻立ちがよく似通っているため、兄弟なのかもしれない。二人共に眼許の涼しげな整った容貌である。
 殊に弟の方のその愛らしさといったらこの上なく、透き通るように白い膚は雪花石膏のようになめらかだ。少年のなりをしている少女と言っても思わず頷いてしまいそうになるほど可憐だ。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ