
月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第10章 第三話【名もなき花】・少年の悲哀
バーン、もう一度、シンバルが鳴り響き、景福と呼ばれた少年が観衆に向かい恭(うやうや)しくお辞儀をする。
「さあ、これより、これなる景福があちらの少年に向かってナイフを投げます、景福が少しでも狙いを外せば、可愛い弟の身体にグサリと鋭い刃の切っ先が突き立つ。さあ、景福がこれから漢(ハ)陽(ニヤン)―、いや、朝鮮一との呼び声も高い名人芸をご披露致します」
バーン、一つシンバルが鳴ったかと思いきや、景福の手からナイフが投げられる。どうといったことのない懐剣ではあるが、それでもまともに身体にグサリと突き立てば、傷は深いだろう。下手をすれば、生命取りになりかねない。
今、少年の手を離れたナイフは風のように唸りをあげながら飛んでゆく。数メートル前方には木の板が立てかけられ、彼の弟らしい少年が手脚をその板に縫い止められ、縄で拘束されているのだ。景福が少しでも外せば、ナイフは弟の身体を刺し貫いてしまうだろう。
〝おお〟とも〝うう〟ともつかぬ低いどよめきが見物人から零れ落ちる。景福が投げたナイフは見事、小柄な少年の右手のひら際ぎりぎりのところに突き刺さった。
「さあ、これより、これなる景福があちらの少年に向かってナイフを投げます、景福が少しでも狙いを外せば、可愛い弟の身体にグサリと鋭い刃の切っ先が突き立つ。さあ、景福がこれから漢(ハ)陽(ニヤン)―、いや、朝鮮一との呼び声も高い名人芸をご披露致します」
バーン、一つシンバルが鳴ったかと思いきや、景福の手からナイフが投げられる。どうといったことのない懐剣ではあるが、それでもまともに身体にグサリと突き立てば、傷は深いだろう。下手をすれば、生命取りになりかねない。
今、少年の手を離れたナイフは風のように唸りをあげながら飛んでゆく。数メートル前方には木の板が立てかけられ、彼の弟らしい少年が手脚をその板に縫い止められ、縄で拘束されているのだ。景福が少しでも外せば、ナイフは弟の身体を刺し貫いてしまうだろう。
〝おお〟とも〝うう〟ともつかぬ低いどよめきが見物人から零れ落ちる。景福が投げたナイフは見事、小柄な少年の右手のひら際ぎりぎりのところに突き刺さった。
