
月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第10章 第三話【名もなき花】・少年の悲哀
光王は明善の屋敷に殺生簿を盗みに入ったところを香花に見つかってしまった。
―俺のことを何故、明善や役人に話さなかった?
後日、町中の露店で一介の小間物売りとしての光王に再会した時、真っ先に光王が訊ねた。が、香花自身、応えようがなかった。
恋い慕う明善の不利になると判っているのに、何故、明善にとって大切な殺生簿をまんまと盗み出した光王の存在を告げようとしなかったのか?
恐らく、あの初めて出逢った夜から、自分は何かしらの形で光王のことを忘れ難く思い始めてしまったに違いない。この世のものとも思われぬ類稀な美貌を持ち、闇の世界で生きる光王を。
むろん、その頃も今もなお、生涯の想い人は、今は亡き明善一人だと信じて疑ってはいないけれど、光王が香花にとって特別な存在であるのは確かだ。
―俺のことを何故、明善や役人に話さなかった?
後日、町中の露店で一介の小間物売りとしての光王に再会した時、真っ先に光王が訊ねた。が、香花自身、応えようがなかった。
恋い慕う明善の不利になると判っているのに、何故、明善にとって大切な殺生簿をまんまと盗み出した光王の存在を告げようとしなかったのか?
恐らく、あの初めて出逢った夜から、自分は何かしらの形で光王のことを忘れ難く思い始めてしまったに違いない。この世のものとも思われぬ類稀な美貌を持ち、闇の世界で生きる光王を。
むろん、その頃も今もなお、生涯の想い人は、今は亡き明善一人だと信じて疑ってはいないけれど、光王が香花にとって特別な存在であるのは確かだ。
