
月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第10章 第三話【名もなき花】・少年の悲哀
光王が自分をただの子どもとしてしか見ていないと固く思い込んでいる香花はよもや、彼が彼女を一人の女人として愛し始めていることなど考えてもいないのだ。
かつて義賊として活躍していた光王から見れば、たとえ辻芸とはいえ、子どもの生命を切り売りするのを見せ物にして銭を取る―というのは到底許しがたいことなのだろう。
想いに耽る香花の耳を、シンバルの音が打つ。ハッと我に返ると、眼前の光景は一転していた。
景福というナイフ投げの名手に代わって、今度は弟―光王が子どもを商売に使うと憤慨していた―の方が観衆の面前で皿を廻している。細長い竹の棒を小さな両手にそれぞれ一本ずつ持ち、その先では丸い皿がまるで独楽のようにくるくるときれいに円を描いていた。
「良いぞ、上手いぞ」
幼い少年に惜しみない声援が送られる中、少年はまだ幼さの残る可愛らしい顔を染めて踏ん張っている。一見、余裕で皿を廻しているようにも見えるが、白い面が紅潮しているのを見ても、かなりの緊張を強いられているのが判る。
と、途中で異変が起こった。少年の左手の先で廻っていた皿が突如として均衡を崩し、大きく傾いたのだ。
かつて義賊として活躍していた光王から見れば、たとえ辻芸とはいえ、子どもの生命を切り売りするのを見せ物にして銭を取る―というのは到底許しがたいことなのだろう。
想いに耽る香花の耳を、シンバルの音が打つ。ハッと我に返ると、眼前の光景は一転していた。
景福というナイフ投げの名手に代わって、今度は弟―光王が子どもを商売に使うと憤慨していた―の方が観衆の面前で皿を廻している。細長い竹の棒を小さな両手にそれぞれ一本ずつ持ち、その先では丸い皿がまるで独楽のようにくるくるときれいに円を描いていた。
「良いぞ、上手いぞ」
幼い少年に惜しみない声援が送られる中、少年はまだ幼さの残る可愛らしい顔を染めて踏ん張っている。一見、余裕で皿を廻しているようにも見えるが、白い面が紅潮しているのを見ても、かなりの緊張を強いられているのが判る。
と、途中で異変が起こった。少年の左手の先で廻っていた皿が突如として均衡を崩し、大きく傾いたのだ。
