無料で楽しめるちょっと大人のケータイ小説

　見物人たちがざわざわとざわめき始める。
　親方もここまで来ると、腹立ちを露わにして少年に詰め寄った。
「どういうつもりだ、え？」
　親方が少年の耳を引っ張り、泣きそうな表情の少年を見物人たちの前から退場させようとする。
「可哀想に、まだ年端もいかない子どもを何もあそこまでしなくても良いのに」
　自らの孫を思い出しているのか、初老の女が低い声で囁き、眉を顰めた。
「全くだぜ、鬼のような親方だな」
　これまでさんざん野次を飛ばしていたことも忘れ果てたかのように、周囲の者たちも口々に親方を罵り始めた。
「お願い、親方、もう一度だけやらせて」
　幼い少年が懇願するのに、親方は頭から怒鳴り飛ばした。
「俺にこれ以上、恥をかかせる気か？　どうしてお前はいつも何をやらせてもヘマばかりするんだ」
　それでも退こうとしない少年に業を煮やした親方が手を振り上げる。
「待って」
　まさにその手が振り下ろされようとする直前、傍らで見守っていた景福が二人の間にすべり込んだ。