
月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第10章 第三話【名もなき花】・少年の悲哀
「嘘だろう、母ちゃんじゃなくて、姉ちゃんの間違いじゃないのか。こんなでっかい息子がいるのかい」
誰かが叫び、一同がどっと笑った。
その時、親方がハッとした顔をしたのを、その場にいた何人が気付いただろう。
旅の大道芸人たちを遠巻きに眺めていた両班が輿の上からそっと従者に耳打ちしたのだ。いかにも好色そうな脂ぎった男は中級官吏とでもいったところか、小柄で小太り、お世辞にも気品とは無縁そうに見える。
その中年男が異様に眼を輝かせているその視線の先には、まだ幼い少年昌福がいた。
香花は、光王が鋭い一瞥を後方に注いだのに気付き、初めてその両班の存在を知った。恐らく、光王はとうから両班がいることを知っていたに相違ない。
従者は小走りに親方に近寄ると、何事か耳許で囁き、親方は歓びを隠せないといった表情で幾度も頷いている。
香花は何か理由(わけ)の判らない嫌な予感がしてならなかった。
誰かが叫び、一同がどっと笑った。
その時、親方がハッとした顔をしたのを、その場にいた何人が気付いただろう。
旅の大道芸人たちを遠巻きに眺めていた両班が輿の上からそっと従者に耳打ちしたのだ。いかにも好色そうな脂ぎった男は中級官吏とでもいったところか、小柄で小太り、お世辞にも気品とは無縁そうに見える。
その中年男が異様に眼を輝かせているその視線の先には、まだ幼い少年昌福がいた。
香花は、光王が鋭い一瞥を後方に注いだのに気付き、初めてその両班の存在を知った。恐らく、光王はとうから両班がいることを知っていたに相違ない。
従者は小走りに親方に近寄ると、何事か耳許で囁き、親方は歓びを隠せないといった表情で幾度も頷いている。
香花は何か理由(わけ)の判らない嫌な予感がしてならなかった。
