
月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第10章 第三話【名もなき花】・少年の悲哀
でも、と、香花は唇を噛みしめ、握りしめた拳に力を込める。だからと言って、眼の前で今にも連れ去られようとしている幼い少年をみすみす見過ごしにできようか。このまま言うなりに両班の屋敷に行けば、、どのような酷い運命があのいたいけな少年を待っているか。世間知らずの香花のような少女に出すら、容易に想像がつく。
庶民は両班にとっては動物以下、物と同じだ。彼等がひと言〝死ね〟と命じれば、庶民は言われるがままに死をも厭ってはならない。それが、身分制度というものだ。
香花は両班の生まれ育ちではあるけれど、彼女の父はけして身分で人を差別することはなかった。かつて香花が強く惹かれた崔明善も。そう、明善がそんな優しい人だからこそ、香花は彼を愛するようになったのだ。
そして、光王もまた、明善と同様、いや、彼自身が妓房(キバン)で育ち妓生(キーセン)の子として蔑まれて育ったからこそ、生まれながらの貴族である明善自身よりもはるかに強烈な身分制度への反感を抱いている。だからこそ、光王は〝義賊光王〟となったのだ。誰よりも何よりも身分社会を嫌悪し、特権階級を憎んでいる彼だから、義賊となり、弱い民を苦しめる輩に逆に意趣返しをしてやった。
庶民は両班にとっては動物以下、物と同じだ。彼等がひと言〝死ね〟と命じれば、庶民は言われるがままに死をも厭ってはならない。それが、身分制度というものだ。
香花は両班の生まれ育ちではあるけれど、彼女の父はけして身分で人を差別することはなかった。かつて香花が強く惹かれた崔明善も。そう、明善がそんな優しい人だからこそ、香花は彼を愛するようになったのだ。
そして、光王もまた、明善と同様、いや、彼自身が妓房(キバン)で育ち妓生(キーセン)の子として蔑まれて育ったからこそ、生まれながらの貴族である明善自身よりもはるかに強烈な身分制度への反感を抱いている。だからこそ、光王は〝義賊光王〟となったのだ。誰よりも何よりも身分社会を嫌悪し、特権階級を憎んでいる彼だから、義賊となり、弱い民を苦しめる輩に逆に意趣返しをしてやった。
