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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第10章 第三話【名もなき花】・少年の悲哀

「何ですって。駄馬よりも私が馬鹿だって、そう言うの、光王」
 香花が思いきり頬を膨らませると、光王は肩を軽くすくめる。彼特有の癖で、大抵、何かに苛立っているときに見せる仕種だ。
「俺があれほど人眼に立たないようにふるまえって日頃から言い聞かせてるのは、一体何のためか、お前は判ってるのか?」
 光王の声がいつになく大きい。
 香花も負けずに言い返す。
「それは―私だって判ってるわよ、いつどこで〝義賊光王〟とあなたを結びつける人がいないとも限らないから―」
 言いかけた香花に、光王はピシャリと決めつけた。
「やっぱり、お前は阿呆だ」
「何よ、人の話をろくに聞きもしないで」
 怒りまくる香花を見て、光王はわざとらしい大仰な溜息をつく。
「香花は自覚があまりにもなさすぎる」
 光王の手が伸びたかと思うと、香花の頭をくしゃくしゃと撫でた。
「香花を見てたら、まともに怒る気も失せた」
 光王が苦笑いを浮かべる。自分を見つめるまなざしが凄く優しいのに気付き、香花は喧嘩の真っ最中だというのに思わず頬が赤らんだ。

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