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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第10章 第三話【名もなき花】・少年の悲哀

―何、どうして、こんなときに頬が熱くなるのよ。
 自分で自分に突っ込んでみるけれど、光王の視線を意識すればするほど頬がカッと熱くなる。
「良いか、香花。お前は自分が世の男どもの眼にどう映るかをまるで自覚していない」
 いきなりなことを言われ、香花を眼を見開いた。
「それって、どういうこと―」
 光王がふとしゃがみ込み、道端の花を一輪、摘み取った。二人がひっそりと暮らす家の庭にも群れ咲く雑草だ。本当の名前があるにはあるのだろうが、生憎と香花は知らない。紫がかったピンク色の愛らしい可憐な花を咲かせる。
「例えば、だ。この花を見ると、俺は綺麗だと思う。綺麗だと思えば、誰しもその花を摘み取りたくなるものだ。判るか? お前はまさに、この花と同じなんだ。お前は自分が考えているよりもずっと美しい。最近はほんの少しだが、色気も出てきた。そんなお前を見たら、男は誰でも手折りたい、摘み取りたいと思わずにはいられなんだ。だからこそ、人眼につかないように―特にあんな助平男には近づくなと俺は声を大にして言いたい」
 大真面目に告げる光王の表情に、香花は思わず吹き出してしまう。
「何がおかしい」
 むろん光王は不機嫌だ。

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