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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第10章 第三話【名もなき花】・少年の悲哀

だって、私が綺麗だなんて、おまけに色気があるだなんて。それこそ光王、あなたの方こそ、頭がどうかしちゃったんじゃない。それとも、トシのせいで眼が見えなくなってきたのかしら。お兄ちゃん(オラボニ)」
「何だと、だ、誰がトシだって?」
 あまりにも想定外の科白に直面し、声が裏返っている。
―ふん、良い気味。先刻、私を阿呆呼ばわりしたお返しよ。
 香花は心の中で舌を出し、知らぬ貌でそっぽを向く。
「俺はだな、香花、お前のことを思って忠告してやっているんだぞ。それをトシだとは何だ」
「余計なお世話です。それよりも、お兄ちゃん、折角綺麗に咲いてるのに、摘んだりしちゃ駄目でしょ。私にちょうだい、持って帰って花瓶に挿しておくから」
 光王が差し出した花を香花は奪い取ると、また一人で歩き出す。
「おい、二人だけのときに、そのお兄ちゃんと呼ぶのは止めろと何度言えば―」
 光王は言いかけて、途中で口をつぐむ。

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