月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第10章 第三話【名もなき花】・少年の悲哀
既に香花の小柄な後ろ姿は随分と先になっていた。光王に追いつかれまいと、よほど大急ぎで歩いているのだろう。
「何というか、本当に強情な女だな」
思わず苦笑が洩れ、光王は美麗な面に微笑を滲ませる。
ちょっとからかえば、すぐに怒る。かと思えば、すぐに泣き出し、自分のことよりも他人ばかり心配して、人助けのためなら、どんな危険をも顧みず飛び込んでゆく。あの娘はそういう女だ。
あの娘の判断基準というのは、多分、自分の身の安全とか幸せではなく、他人の幸せに違いない。
だからこそ、香花から眼が離せない。少しでも油断していると、どこに飛んでいってしまうか判らない可愛い小鳥。本当はそう言ってやりたいが、香花の前に出ると〝騒馬〟だとか何とか、あの娘を怒らせるような言葉しか出てこない。我ながら自己嫌悪だ。
数え切れないほどの女と身体を重ね、女心など、とっくに知り尽くしていると思っていたが、たかが十五歳の―自分よりも十一も年下の少女の心一つ掴めないとは。
「何というか、本当に強情な女だな」
思わず苦笑が洩れ、光王は美麗な面に微笑を滲ませる。
ちょっとからかえば、すぐに怒る。かと思えば、すぐに泣き出し、自分のことよりも他人ばかり心配して、人助けのためなら、どんな危険をも顧みず飛び込んでゆく。あの娘はそういう女だ。
あの娘の判断基準というのは、多分、自分の身の安全とか幸せではなく、他人の幸せに違いない。
だからこそ、香花から眼が離せない。少しでも油断していると、どこに飛んでいってしまうか判らない可愛い小鳥。本当はそう言ってやりたいが、香花の前に出ると〝騒馬〟だとか何とか、あの娘を怒らせるような言葉しか出てこない。我ながら自己嫌悪だ。
数え切れないほどの女と身体を重ね、女心など、とっくに知り尽くしていると思っていたが、たかが十五歳の―自分よりも十一も年下の少女の心一つ掴めないとは。