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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第11章 謎の女

 そのためには香花が誰か適当な相手を見つけて結婚するしかないのだが、香花には崔明善という生涯を捧げて悔いなき男がいる。たとえ明善がこの世の人ではなくなっても、彼(か)の人への想いが変わるわけではない。金氏の唯一の生き残りである香花が生涯結婚する気がない限り、実のところ、家門を再興することはできず、このままでは金氏は断絶するしかない。
 実家の再興は香花の悲願でもあり、香花の母代わりである叔母香(ヒヤン)丹(ダン)のたっての望みでもある。遠く離れた漢陽にいる叔母にこの先、再び生きてあいまみえる日が来るのかどうかは判らないけれど、自分の我が儘で叔母の願いを無下にしてしまうのは辛かった。
 実家のことを考えると、心はどうしても沈んでしまう。香花は脚許に群がり咲く花を哀しい想いで見つめた。
 今、狭い庭を一杯に飾っているのはピンクと白の小花だ。ピンクの方は、今日の朝、町からの帰り道に咲いていたものと同じ、白い方はドクダミ草である。どちらも野辺の花には変わりないけれど、そう呼んでしまうのは勿体ないくらい素敵な花だ。殊にドクダミの葉を乾燥させ、煎じて飲めば、解毒作用もある薬湯になる。

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