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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第11章 謎の女

 ピンクの花の名前は知らないが、本当に可愛らしい花である。気をつけて見ていると、この花は昼過ぎには花を閉じることが判った。今はむろん、どの花も慎ましく花を閉じ、まるで眠っているかのように見える。
 開いている姿も良いが、こうして閉じているのもまた趣がある。この花を見ていると、香花は可憐な風情の少女を彷彿とする。まだ開かぬ初々しい少女が少し恥じらっているような愛らしさがある。
 それがまさに今の自分のようだ―とまでは流石に気付いてはいないが。
 香花は視線を動かすと、西の空を夕陽の色に染める太陽に眼を細める。
 光王は少し離れた隣まで卵を届けにいっている。隣家は朴(パク)某という若い夫婦が住んでいて、二人共に気の好い情に厚い人たちだ。そこについ半月前、初めての赤児が生まれた。妻の方はまだ産褥にあるが、乳の出が良くないという。その日暮らしの貧しい農村では、乳が満足に出るほど栄養を取れないのだ。少しでも栄養を取って貰おうと香花は時々、朴家に卵を届けていた。
「赤ちゃん、か」
 香花は何度か抱かせて貰った朴家の赤ン坊を思い出す。やわらかな膚触り、ふにゃふにゃして少し力を込めれば壊れてしまいそうなほどの小さな小さな愛おしい生きもの。

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