月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第11章 謎の女
「ここは余(ヨ)さんのお住まいですか?」
香花は、聞き慣れない声に俄に現実に引き戻される。余というのは、ちなみに光王の姓である。兄妹という建て前上、香花は光王の姓を名乗っているのだ。
顔を上げると、柵の向こうにひょろ長い少年の姿が見えた。
香花の脳裡に、今朝方の風景が甦る。
派手に鳴り響くシンバルの音。幼い弟に向かって懐剣を投げていた背の高い少年。
「あなたは―」
香花が眼を見開くと、少年はペコリと頭を下げ、何故か少し眩しげに眼を細めた。
「今日はお礼に伺ったんです」
少年が身動きする度に、首にかけた飾りがゆらゆらと揺れる。翡翠なのだろうか、鶯色の綺麗な曲玉形の玉を革紐に通したものだ。少年の歳にも身分にもふさわしいものとは思えなかったが、むろん口にはしない。
見たところ、この少年は盗みをするようには見えないし、何かの事情があって持つに至ったのだろう。
乗り越えようと思えば容易に乗り越えられる柵の向こう側に遠慮がちに佇んでいるのも、彼の控えめな性格を物語っている。
香花は、聞き慣れない声に俄に現実に引き戻される。余というのは、ちなみに光王の姓である。兄妹という建て前上、香花は光王の姓を名乗っているのだ。
顔を上げると、柵の向こうにひょろ長い少年の姿が見えた。
香花の脳裡に、今朝方の風景が甦る。
派手に鳴り響くシンバルの音。幼い弟に向かって懐剣を投げていた背の高い少年。
「あなたは―」
香花が眼を見開くと、少年はペコリと頭を下げ、何故か少し眩しげに眼を細めた。
「今日はお礼に伺ったんです」
少年が身動きする度に、首にかけた飾りがゆらゆらと揺れる。翡翠なのだろうか、鶯色の綺麗な曲玉形の玉を革紐に通したものだ。少年の歳にも身分にもふさわしいものとは思えなかったが、むろん口にはしない。
見たところ、この少年は盗みをするようには見えないし、何かの事情があって持つに至ったのだろう。
乗り越えようと思えば容易に乗り越えられる柵の向こう側に遠慮がちに佇んでいるのも、彼の控えめな性格を物語っている。