月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第11章 謎の女
「お礼?」
香花が小首を傾げる。
確か名は景(キヨン)福(ボク)といったか。香花がぼんやりと思い出していると、景福は笑った。笑顔がとても似合う。陽灼けした顔には少年から青年へと移りゆこうとする年令特有の不安定さがあったが、彼の男ぶりの良さにはいささかも影響はしていない。
数年経てば、さぞかし精悍で男前の若者になるだろう。
景福は少し躊躇い、ひと息に言った。
「君が弟を助けてくれなかったら、昌(チヤン)福(ボク)はサヒョンにあの両班の屋敷に無理やり行かされていた」
香花は微笑む。
「たいしたことじゃないわ。そんなお礼を言って貰うほどのことじゃないのに、わざわざ来て下さったの?」
景福は頷いた。
「昌福は僕にとっては大切な弟なんだ。サヒョンは悪い親方ではないけど、昌福をああやって、時々、両班や商人の慰みものにしようとする。僕はそれが許せない。母さん(オモニ)は芸人の宿命だから仕方ない、諦めるしかない、何があっても堪えるんだと言うけれど、何があったとしても、昌福に身売りなんかさせられない」
香花が小首を傾げる。
確か名は景(キヨン)福(ボク)といったか。香花がぼんやりと思い出していると、景福は笑った。笑顔がとても似合う。陽灼けした顔には少年から青年へと移りゆこうとする年令特有の不安定さがあったが、彼の男ぶりの良さにはいささかも影響はしていない。
数年経てば、さぞかし精悍で男前の若者になるだろう。
景福は少し躊躇い、ひと息に言った。
「君が弟を助けてくれなかったら、昌(チヤン)福(ボク)はサヒョンにあの両班の屋敷に無理やり行かされていた」
香花は微笑む。
「たいしたことじゃないわ。そんなお礼を言って貰うほどのことじゃないのに、わざわざ来て下さったの?」
景福は頷いた。
「昌福は僕にとっては大切な弟なんだ。サヒョンは悪い親方ではないけど、昌福をああやって、時々、両班や商人の慰みものにしようとする。僕はそれが許せない。母さん(オモニ)は芸人の宿命だから仕方ない、諦めるしかない、何があっても堪えるんだと言うけれど、何があったとしても、昌福に身売りなんかさせられない」