月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第11章 謎の女
今度は香花が笑う。
「可愛いかどうかは判らないけど、私の名前は香花、これからは香花と呼んで」
「香花、とても良い名前だ。君にぴったりじゃないか」
景福は微笑み、何かを思い出したらしく、表情を翳らせた。
「何かまだ心配事があるの?」
香花の問いかけに、景福は薄く笑む。
「おかしなものだ。両班が人間だというのなら、僕たちだって、紛れもない人間じゃないか。同じ人間なのに、どうして僕たちだけが賤しい者だと決めつけられ、両班たちが威張り腐って僕らはいつも虐げられてばかりいるんだろう」
「本当よね。哀しいことだし、納得できないけど、それが今のこの国の現実だものね」
香花は景福に到底、自分もまた両班の娘なのだとは言えなかった。それほど、このときの少年の瞳は両班―この世の支配者階級に対する憎しみに燃えていた。
「可愛いかどうかは判らないけど、私の名前は香花、これからは香花と呼んで」
「香花、とても良い名前だ。君にぴったりじゃないか」
景福は微笑み、何かを思い出したらしく、表情を翳らせた。
「何かまだ心配事があるの?」
香花の問いかけに、景福は薄く笑む。
「おかしなものだ。両班が人間だというのなら、僕たちだって、紛れもない人間じゃないか。同じ人間なのに、どうして僕たちだけが賤しい者だと決めつけられ、両班たちが威張り腐って僕らはいつも虐げられてばかりいるんだろう」
「本当よね。哀しいことだし、納得できないけど、それが今のこの国の現実だものね」
香花は景福に到底、自分もまた両班の娘なのだとは言えなかった。それほど、このときの少年の瞳は両班―この世の支配者階級に対する憎しみに燃えていた。