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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第11章 謎の女

―義賊だと何だともてはやされているが、〝光の王〟は所詮、そんな掏摸や掻っ払いを重ねてた浮浪児たちの集まりがいつしか膨れ上がってできた集団さ。
 あのときの光王はいつになく投げやりな口調で言った。
 景福も光王もいわば、この世の地獄を見てきた。家門が低いとはいえ、両班の娘として生まれ育ち大切にされてきた香花とは違う。香花の苦労など、彼等の舐めてきた辛酸に比べれば、物の数にも入らないだろう。
 それから、景福は訥々と自分の身の上を語った。景福は今年、十三になる。父親もやはり同じ一座にいたが、三年前に旅の途中で流行病(はやりやまい)に罹って亡くなった。母恵京は三十をわずかに過ぎており、綱渡りが得意なこと。
 弟の昌福の話になると、景福は実に嬉しそうに語り、彼がどれほどこの歳の離れた弟をを可愛がっているか知れた。
 昌福は景福より五つ下の八歳、女の子とよく間違えられ、その可憐な美貌がかえって仇となり、これまでにもしばしば一夜の伽に差し出せと親方サヒョンを通して命じられたことがあった。
「あいつらの考えてることが僕はよく判らない。八つの子ども、しかも男の子を伽の相手に望んで、一体どうするつもりなのだろう? まともな人間の考えることじゃない」

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