月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第2章 縁(えにし)~もう一つの出逢い~
「坊ちゃん、こんな場所にいては、身体に障りますよ? それに、こんな空模様では雨が降りそうですから、早く中に戻りましょう、ね?」
「―本当なのか?」
聞き取れないほどの小さな囁きに、香花は眼を瞠る。
「父上が仰せであった。母上はお空におられると。ならば、空に向かって話しかければ、母上のお声が空から聞こえてくるのか? たとえお逢いできなくても、母上のお声だけでも聞くことができるのか」
「それは―」
応えに窮した香花に、林明が叫ぶように言う。
「先生は申したではないか! 花に心があって、話しかければ応えるというなら、空だって私が呼びかければ、ちゃんと応えてくれるだろう? そうではないのか、先生」
それは少し微妙に次元の違う話だと思うが、母を恋い慕うあまりにそんなことを言い出した幼子に正面から否定もできない。
「心の声が―きっと聞こえます」
考えた末に香花が返した精一杯の応えであった。
「心の声?」
林明があどけない表情で首を傾げる。
香花はしゃがみ込むと、林明と同じ眼線の高さになる。
「そう、耳を、心を澄ませてごらんなさい。きっと空から降ってくるお母上さまの声が坊ちゃんの耳に聞こえてきますよ」
「心の声ということは、実際には母上の声が私には聞こえてはこないのか?」
香花は優しく頷いた。
「だからこそ、心で聞くのです」
林明の小さな顔が真っ赤に染まった。
「そんなのは、所詮、ごまかしではないか!」
「林明さま―」
「―本当なのか?」
聞き取れないほどの小さな囁きに、香花は眼を瞠る。
「父上が仰せであった。母上はお空におられると。ならば、空に向かって話しかければ、母上のお声が空から聞こえてくるのか? たとえお逢いできなくても、母上のお声だけでも聞くことができるのか」
「それは―」
応えに窮した香花に、林明が叫ぶように言う。
「先生は申したではないか! 花に心があって、話しかければ応えるというなら、空だって私が呼びかければ、ちゃんと応えてくれるだろう? そうではないのか、先生」
それは少し微妙に次元の違う話だと思うが、母を恋い慕うあまりにそんなことを言い出した幼子に正面から否定もできない。
「心の声が―きっと聞こえます」
考えた末に香花が返した精一杯の応えであった。
「心の声?」
林明があどけない表情で首を傾げる。
香花はしゃがみ込むと、林明と同じ眼線の高さになる。
「そう、耳を、心を澄ませてごらんなさい。きっと空から降ってくるお母上さまの声が坊ちゃんの耳に聞こえてきますよ」
「心の声ということは、実際には母上の声が私には聞こえてはこないのか?」
香花は優しく頷いた。
「だからこそ、心で聞くのです」
林明の小さな顔が真っ赤に染まった。
「そんなのは、所詮、ごまかしではないか!」
「林明さま―」