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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第11章 謎の女

「光王、あなたがそんな風に淋しそうな表情(かお)をするのは、誰のせいなの?」
 光王の切れ長の眼(まなこ)がすっと細められた。
 いつも彼が纏う雰囲気とは微妙に違う。まるで呑めない酒を無理に呑まされてしまったかのような、どこまでも醒めた視線にたじろぐと共に、どこかで怖いと思った。
「―何故、そんなことを訊く?」
 香花はわずかに言い淀み、小さくかぶりを振る。
「さっき、ミリョンを見た時、ひどく愕いていたわ。まるで、百年も離れていた恋人に再会したような貌をしてた」
「ミリョン? あの女の名前か」
 その当惑げな反応から、少なくとも光王がミリョンと知り合いであるという可能性はなくなった。―もっとも、その可能性は最初から限りなく低いとは思っていたが。
「私、いつも思ってたの。光王はいつも淋しそうに見えた。初めは、それがあなたの話してくれたお母さんのことや辛かった子ども時代に関係あるのかとも考えたんだけれど、何か、それだけではないのではと思うようになったのよ。あなたの拭いがたい翳りの因(もと)は昔の苦しい恋のせいかもしれないって」
「―」
 それは彼にとっても思いかけぬ言葉だったのか、光王は小さく息を呑む。

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