テキストサイズ

月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第11章 謎の女

「私は過去にしがみついてなんかいない。過去にしがみつくのと、想い出を大切にするのとは全然違うもの。私から見れば、光王、あなたこそ、過去にしがみついているようにしか見えないんだけど」
「俺が過去にしがみついているだと?」
 抑揚のない声に、一瞬、気圧される。だが、一度溢れ出した言葉は、意思の力だけでは止まらなかった。
「だって、ミリョンを見たときのあなたの貌、あなたは判らないだろうけれど、本当にどうしちゃったんだろうと心配したくらいだった。ミリョンは、昔、あなたが好きだったという女のひとに似ているんでしょ? だから、光王はあんなに愕いた―、どう、違う?」
「もう、良い」
「光―」
 怒鳴り声が香花を遮る。
「もう良いと言ってるんだ! 他人の昔をあれこれと嗅ぎ回るのは止せ。それよりも、香花、その後生大切に隠し持っているロザリオを良い加減に捨てたら、どうなんだ?」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ