
月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第11章 謎の女
光王は先刻から、立ち上がりかけては、また座り、座っては立ち上がる―と傍目には随分と愚かしく思える同じ行為を際限なく繰り返していた。
―俺はお前の兄になるつもりも、家族になるつもりもない。
あの科白の後、彼は辛うじて続きの言葉を呑み込んだ。
―俺がなりたいのは、兄でも家族でもない。お前の恋人なんだ。
漢陽からこの町まで旅してきた半月もの間、彼と香花はしばしば夫婦に間違えられた。
そんな時、香花は大抵、曖昧に笑って何も言わなかったが、この町に着いたばかりの頃、一度だけ、〝違います〟とはっきり否定したことがあった。
あのときも、彼は大いに衝撃を受け、狼狽えた挙げ句、今夜のように苛立ちを持て余したものだ。
―香花はそれで良いかもしれない。恋しい男の形見を握りしめて、天主教信者と間違われるんだから、それこそ本望だろうが、巻き添えを食う俺の身にもなってみろよ。迷惑も良いところだぜ。
―俺はお前の兄になるつもりも、家族になるつもりもない。
あの科白の後、彼は辛うじて続きの言葉を呑み込んだ。
―俺がなりたいのは、兄でも家族でもない。お前の恋人なんだ。
漢陽からこの町まで旅してきた半月もの間、彼と香花はしばしば夫婦に間違えられた。
そんな時、香花は大抵、曖昧に笑って何も言わなかったが、この町に着いたばかりの頃、一度だけ、〝違います〟とはっきり否定したことがあった。
あのときも、彼は大いに衝撃を受け、狼狽えた挙げ句、今夜のように苛立ちを持て余したものだ。
―香花はそれで良いかもしれない。恋しい男の形見を握りしめて、天主教信者と間違われるんだから、それこそ本望だろうが、巻き添えを食う俺の身にもなってみろよ。迷惑も良いところだぜ。
