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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第11章 謎の女

 我ながら酷い台詞だ。香花にはさぞかし血も涙もない男だと思い込まれてしまっただろう。
 香花が崔明善と死別してから、まだ一年も経ってはいない。香花にとって、明善との恋は、まさに生命賭けのものだった。それを誰よりよく知る彼は、容易く―それこそ一年や二年で彼女が明善への思慕を捨てられるはずがないことを理解しているつもりだ。
 だが、理性では納得していても、感情がそれに伴わない。光王も若い男の身だから、惚れた女がすぐ傍にいながら、何もできないというのは正直、我慢の限界に挑んでいるようなものだ。
 扉一枚隔てた向こうに香花が眠っていると考えただけで、身体が熱くなって、どうしようもないことだってある。かと言って、町の妓房に行って他の女を抱く気にもなれず、一晩中、悶々と過ごすしかない。
 かつては金を積まれれば、両班の奥方や豪商の内儀とも褥を共にした光王だった。香花と二人きりで暮らすようになってから、滾る欲情や香花への恋情を抑えかね、幾度、妓房の前まで行ったことか。が、その度に脚を踏み入れることもなく、引き返してくるのが常だった。

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