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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第11章 謎の女

 雀の啼き声がかすかに聞こえてくる。
 香花は深い水底(みなそこ)からゆっくりと浮かび上がってくるような感覚と共にめざめた。
 香花はゆっくりと周囲を見回し、既に夜が明けたことを確認する。細く開けた窓もそのままに、香花は文机にいつしか突っ伏して眠ってしまっていたようだ。窓越しに差し込んでくる朝の光に眼を細め、香花は緩慢な動作で立ち上がる。
 念のために隣の部屋を覗いてみたが、やはり、光王はいなかった。
 一体、どこに行ってしまったのか。
 光王と喧嘩した彼女は庭に出て、ひとしきり泣いた。それから再び自室に籠もり、泣きながら眠ってしまったため、光王がいつ家を出ていったのかも判らない。
 とりあえず喉の渇きを潤そうと、光王が使っている部屋を通り、土間に降りた。
 家の前に置いてある大きな甕から瓢箪型の器に水を掬う。はしたないと思いつつも、喉を鳴らしてひと息に飲み干す。心地良い水の感触が喉をすべり落ちてゆき、生き返ってゆくようだ。

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