月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第11章 謎の女
大きな息をついたその時、庭を囲んだ簡素な木の柵の向こうに人影を見た。家の周囲にぐるりと巡らせた柵の中ほどに戸が付いていて、人が戸を開けて出入りする度に、戸に取り付けた鈴が小さな音を立てる仕組みになっている。
その呼び鈴の音に、香花は漸く帰宅した光王をたとえようもない気持ちで迎えた。
―お帰りなさい。
それでも、ちゃんと真っすぐに顔を見て言うつもりだった。香花のすぐ傍を通りかかった光王の身体からかすかに嗅ぎ馴れない匂いが漂ってくるまでは。
香花は込み上げてくる涙を瞼の裏で懸命に乾かした。
この匂いは―光王が身体中に纏いつかせている香りがそも何であるか。幾ら奥手の香花だって、それくらいは判る。
安物の脂粉の香りは、間違いなく妓生のものだ。光王は、香花と喧嘩した後、町の妓房まで行ったに違いない。
酷い。あまりにも酷すぎる。自分は光王の身を案じて、家で待っていたというのに!!
香花が心配していたまさにその時、光王は妓房で妓生を抱き、女の移り香、情事の残り香を撒き散らしながら帰ってきたというわけだ。
その呼び鈴の音に、香花は漸く帰宅した光王をたとえようもない気持ちで迎えた。
―お帰りなさい。
それでも、ちゃんと真っすぐに顔を見て言うつもりだった。香花のすぐ傍を通りかかった光王の身体からかすかに嗅ぎ馴れない匂いが漂ってくるまでは。
香花は込み上げてくる涙を瞼の裏で懸命に乾かした。
この匂いは―光王が身体中に纏いつかせている香りがそも何であるか。幾ら奥手の香花だって、それくらいは判る。
安物の脂粉の香りは、間違いなく妓生のものだ。光王は、香花と喧嘩した後、町の妓房まで行ったに違いない。
酷い。あまりにも酷すぎる。自分は光王の身を案じて、家で待っていたというのに!!
香花が心配していたまさにその時、光王は妓房で妓生を抱き、女の移り香、情事の残り香を撒き散らしながら帰ってきたというわけだ。