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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第11章 謎の女

「―ただいま」
 すれ違いざま、光王がいつになく気弱な声で言う。
 だが、香花は、涙ぐんで光王を睨みつけた。
「香花、昨夜は言い過ぎた。俺は―」
 言いかけた男の言葉を香花は遮った。
「この人でなし!」
「―香花」
 整った貌が哀しげに歪む。
 その傷ついた顔に香花自身の心もきりきりと痛むのに、どうしても優しい言葉が出てこない。出てくるのは、嫌な尖った言葉ばかりだ。
「光王なんて、大嫌い。不潔だわ」
 香花は思いきり叫び、背を向けて室に駆け戻った。
 そのまま床に倒れ込み、突っ伏して声を上げて泣いた。
 そして、ふと気付いたのだ。
 何故、こんなにも胸が痛いのだろう。
 どうして、心が悲鳴を上げるのだろう。
 光王が妓生を、他の女を抱いたと想像しただけで、不吉なほどに胸がざわめく?
 光王がミリョンに、自分以外の女に眼を奪われたと知っただけで、あんなにも心が波立った?

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