月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第2章 縁(えにし)~もう一つの出逢い~
懐かしげに妻のことを語った明善の表情を思い出す。まるで大切にしている宝物を心から愛おしんでいるかのような口調に、胸が切なく痛んだ。そう、明善にとって、亡き妻と過ごした日々は宝物なのだ。
この屋敷に来てからの日々が、香花にとっても宝物であるのと同じように。でも、明善にとって、香花と過ごす時間は何の意味も持たない。彼が一途に見つめ続けるのは、もう四年も前に亡くなった妻ただ一人なのだから。
可哀想な私の初恋。
いささか感傷的・自虐的すぎると笑われるかもしれないけれど、香花は始まる前から潰えてしまった自分の恋が哀れに思えた。
この想いを告げるなんて、考えない方が良い。この想いは大切に自分の胸の内にだけ秘めておいて、静かに刻が過ぎるのを待とう。刻が経てば、辛い恋の想い出も懐かしいものに変わるだろう。ああ、あんなことがあったと過去を振り返られるようになるかもしれない。
香花は自分に言い聞かせる。
それでも溢れようとする涙は堪(こら)えられず、とうとう熱い雫となって頬を流れ落ちる。
この想いを一体、どこに棄てれば良い?
一人で抱え続けるには、あまりにも重たすぎる。辛すぎる。自分はこんな近くにいるのに、明善はもう何年も前に亡くなった別の女人だけをひたすら見つめている。
判っている。香花は所詮、この家の家庭教師として迎えられたにすぎず、明善の妻は二人の子の母であり、夫婦として苦楽を共にした女性だ。しかも、明善は誰に反対されても、最後まで彼女を妻に迎える意思を断固貫いた―、それほどまでに彼女を求め愛していたのだ。そこに、自分などが入り込む余地がないのも十分理解している。
それでも、なお諦め切れないのが恋。
お願い、教えて。
この屋敷に来てからの日々が、香花にとっても宝物であるのと同じように。でも、明善にとって、香花と過ごす時間は何の意味も持たない。彼が一途に見つめ続けるのは、もう四年も前に亡くなった妻ただ一人なのだから。
可哀想な私の初恋。
いささか感傷的・自虐的すぎると笑われるかもしれないけれど、香花は始まる前から潰えてしまった自分の恋が哀れに思えた。
この想いを告げるなんて、考えない方が良い。この想いは大切に自分の胸の内にだけ秘めておいて、静かに刻が過ぎるのを待とう。刻が経てば、辛い恋の想い出も懐かしいものに変わるだろう。ああ、あんなことがあったと過去を振り返られるようになるかもしれない。
香花は自分に言い聞かせる。
それでも溢れようとする涙は堪(こら)えられず、とうとう熱い雫となって頬を流れ落ちる。
この想いを一体、どこに棄てれば良い?
一人で抱え続けるには、あまりにも重たすぎる。辛すぎる。自分はこんな近くにいるのに、明善はもう何年も前に亡くなった別の女人だけをひたすら見つめている。
判っている。香花は所詮、この家の家庭教師として迎えられたにすぎず、明善の妻は二人の子の母であり、夫婦として苦楽を共にした女性だ。しかも、明善は誰に反対されても、最後まで彼女を妻に迎える意思を断固貫いた―、それほどまでに彼女を求め愛していたのだ。そこに、自分などが入り込む余地がないのも十分理解している。
それでも、なお諦め切れないのが恋。
お願い、教えて。