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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第11章 謎の女

 光王は女には大目に金をはずんで、早々に妓房を出た。せめて朝飯だけでも食べていったらと勧められても、断った。女は悪い顔もせず、
―今度から夫婦喧嘩なんてするもんじゃありませんよ。
 と、笑顔で送り出したくれた―。
 一緒にいて気持ちの良い女だった。香花という想い人の存在がなければ、光王は、このいささか盛りの過ぎようとしている妓生を抱いていたかもしれない。
 折角の好意を最後まで拒むのは気が引けたものの、実のところ、朝食を食べるほど具合が良くはなく、二日酔いで―これも初めての経験だった―頭は割れるように痛んでいたのである。
 それでも一刻も早く家に戻り、香花に謝りたい一心で帰ってきたのに、この体たらくだ。
―光王なんて、大嫌い。不潔だわ。
 香花の泣き顔が浮かび、叫び声が頭の中でわんわんと響きわたり、余計に頭痛が増すような気がする。
 どうも、香花にとんでもない誤解をされているような気がする。もっとも、喧嘩して家を飛び出し、更に女の匂いを纏って朝帰りとなれば、誤解されても致し方のない状況ではあるが。

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