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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第12章 半月

 昼間、彼はずっと町で商売をしているのだから、その合間に妓房に行っていたとしても香花には知るすべはない。
 第一、光王の妻でもない自分がそこまで彼の行動を把握する必要はないのだ。
 光王への恋心を自覚してからというもの、香花は、まともに彼の顔を見られなくなってしまった。こんなことなら、むしろ以前のように気軽に軽口を叩いていたときの方が懐かしかったとさえ思う。光王は光王で、まだ怒っているのか、前みたいに香花を〝騒馬(ソマル)〟とからかってもこない。
 香花が人知れず吐息を洩らす。
 ふいにカタリと物音がし、愕いて振り返った。
 窓辺に差し込む月光が光王の端整な美貌を浮かび上がらせる。普段から色素の薄い茶色っぽい髪が煌めき、黄金色(きんいろ)に見える。まるで月の光で紡いだ金の糸のようだ。
 思わずその美しさに見惚れていると、光王が笑った。
「お前も眠れないのか?」
 久しぶりに見る屈託ない顔に、香花は泣きたくなるほど嬉しくなった。

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