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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第12章 半月

 ああ、私はこんなにもこの男(ひと)が好き。
 今更ながらに思う。
 何故、もっと早くに気付かなかったのだろう。こんなに近くにいるのに、いつも傍にいるのに。
 いや、近くにいるからこそ、かえってこの想いに気付かなかったのかもしれない。
「光王も眠れないの?」
 折角光王の方からこうして話しかけてきたのだ。本格的に仲直りできる何よりの機会だと、香花もまた微笑む。
「月が綺麗すぎるからかしら」
 と、光王がプッと吹き出す。
「お前も一応、女なんだな。月を見て物想いに耽ることもあるのか、騒馬」
 次の瞬間、香花が眉をつり上げた。
「まっ、また言ったわね。騒馬って」
 光王が笑い声を上げる。
「やっぱり、騒馬は騒がしくなくちゃ、騒馬じゃないな」
 実に憎らしいことを言うが、今夜ばかりは腹が立つよりも嬉しかった。こんな風に気軽に物を言い合える関係に戻れた―、そのことが何より香花には嬉しかったのだ。

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