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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第12章 半月

 艶めいた瞳には男の色香が滴るほど溢れている。幾ら香花が光王への恋情を自覚したとはいえ、いきなり、この状況は少し受け容れがたい。それに光王の気持ちも確認できていないのに、彼の大勢の女たちと同様に、いっときの快楽のためだけの相手にはなりたくないし、したくない。
 香花は、ふるふると首を振った。
「た、確かに初めてじゃないけど、でもっ」
 光王と唇を重ねたのは過去、二回。しかし、初めは追っ手の役人の眼を眩ますためだったし、二度目もひどい喧嘩をした後、怒った光王が懲らしめのように香花の口を塞いだ―どちらも甘く扇情的な恋の雰囲気から交わされたものには程遠い。
「寄るな触るな近づくな~。それ以上、近づいたら、大声出して人呼ぶわよ」
 香花が切羽詰まった声を出すと、途端に光王が腹を抱えて笑い出した。
「口ほどにもない奴だな。ほら、やはり、子どもじゃないか」
 刹那、香花の白い頬が染まる。
「私をからかったのね、このろくでなし!!」
 光王が眉をわざとらしく顰めて見せる。
「ろくでなしに、この前は人でなし、俺も随分な言われようだ。ああ、そう言えば、お前はこうも言ってたな。不潔だとか、嫌いだとか」

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