月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第12章 半月
「大丈夫?」
香花が背後から声をかけると、子どもが振り向いた。
やはりと、思う。八歳にしては小柄なその子は申(シン)昌(チヤン)福(ボク)、景福の弟である。
昌福の大きな黒い瞳に涙の粒が宿っていた。香花はその涙に胸を衝かれた。
「どこか痛いの? 怪我をしたところはない?」
昌福が小さくかぶりを振った。
どうやら、彼は先刻からある店の売り物が気になっていたらしい。そのため、人通りの多い往来の真ん中に立ちんぼしていて、通行人と衝突してしまったのだ。
その視線の先を辿ると、美味しそうな蒸し饅頭が湯気を立てていた。
香花は今し方買ったばかりの包みを開き、蒸し饅頭を一個取り出す。
〝はい〟と、昌福に差し出した。
「私のお兄ちゃんも蒸し饅頭が大の好物なのよ。良い歳をした大人のくせに変でしょ」
どこかで光王が盛大なくしゃみをしている顔が見えるようだ。
香花が思い浮かべてクスリと笑みを洩らすと、昌福が愕いたように見つめてくる。
しばらく互いに顔を見つめ合い、声を上げて笑う。
香花が背後から声をかけると、子どもが振り向いた。
やはりと、思う。八歳にしては小柄なその子は申(シン)昌(チヤン)福(ボク)、景福の弟である。
昌福の大きな黒い瞳に涙の粒が宿っていた。香花はその涙に胸を衝かれた。
「どこか痛いの? 怪我をしたところはない?」
昌福が小さくかぶりを振った。
どうやら、彼は先刻からある店の売り物が気になっていたらしい。そのため、人通りの多い往来の真ん中に立ちんぼしていて、通行人と衝突してしまったのだ。
その視線の先を辿ると、美味しそうな蒸し饅頭が湯気を立てていた。
香花は今し方買ったばかりの包みを開き、蒸し饅頭を一個取り出す。
〝はい〟と、昌福に差し出した。
「私のお兄ちゃんも蒸し饅頭が大の好物なのよ。良い歳をした大人のくせに変でしょ」
どこかで光王が盛大なくしゃみをしている顔が見えるようだ。
香花が思い浮かべてクスリと笑みを洩らすと、昌福が愕いたように見つめてくる。
しばらく互いに顔を見つめ合い、声を上げて笑う。