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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第12章 半月

 昌福は歓声を上げた。この花を摘んで花束にして持ち帰ったら、母が歓ぶだろう。母の優しい笑顔を思い出して、嬉しくなる。
 さっきのあのお姉ちゃんも優しかったけれど、やっぱり、昌福は母がいっとう好きだ。
 景福は、サヒョン一座きっての美貌と綱渡りの名手と謳われる母が自慢だ。芸に何度挑戦してもできなくて、物憶えが悪いと親方に叱られて泣いている時、母は昌福を優しく抱きしめて頭を撫でてくれる。そんな時、彼をふんわりと包み込む母の匂いも、母の花のような笑顔も大好きだ。
 夢中で花を摘んでいる中、昌福は刻が経つのも忘れ果てていた。
「坊や」
 ふいに背後から声をかけられ、昌福は振り向いた。

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