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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第12章 半月

 男は気さくに訊ねてくる。
「何をしているの?」
「お母さん(オモニ)にこの花を摘んで持って帰るんだ」
 無邪気な言葉に、男は顔をほころばせた。
「それは幼いのに、親孝行なことだ。綺麗な花を見て、母さんもさぞ歓ぶだろう」
 褒められ、昌福は嬉しげに頷く。
 若者は思い出したように、さらりと口にした。
「これから、おじさんと一緒に来ないか? 母さんが歓びそうな綺麗な簪や首飾りをあげよう」
「うん」
 勢いよく返事をした後、昌福は躊躇いの表情を可愛らしい面に浮かべた。
「でも、お母さんが知らない人についていっちゃいけないって」
「なに、ほんの少しだけ、構やしないさ。お母さんの歓ぶ顔が見たいんだろう? すぐに家に帰してあげるよ」
 昌福は男の顔をまじまじと見上げた。
 いかにも人の好さそうな、優しげな笑みを浮かべるこのおじさんが悪い人のはずがない。

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