月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第12章 半月
空が橙色に染まる頃、表の呼び鈴がチリチリと音を立てた。夕飯の準備を終え、仕立物の続きに取りかかっていた香花は弾かれたように顔を上げ、立ち上がった。
「光王、お帰りなさい!」
勢いよく入り口の扉を開け、あまりのはしゃぎ様に自分でも恥ずかしくなったが―、庭に立っていたのは待ち人ではなかった。
「景福?」
夕陽が景福の横顔を照らしている。
少年期特有のほっそりしたしなかやな骨格をしているものの、香花よりはもう拳一つ分くらい高い身の丈や、少しずつ筋肉のつき出した腕などを見ると、彼が早くも少年から青年期の逞しさを身につけ始めていることが判る。
眼前の少年は、まさに子どもから大人への過渡期の真っ只中にいるのだ。
だが、夕陽の色に染まった景福の表情は沈んでいた。
刹那、香花の胸に嫌な予感が走った。
こんな幸せが長く続くはずがない。誰かがどこかで囁く。
「景福、一体、どうしたの? 何があったの?」
香花が急き込んで問いかけると、景福がその場にくずおれるように膝をついた。
「光王、お帰りなさい!」
勢いよく入り口の扉を開け、あまりのはしゃぎ様に自分でも恥ずかしくなったが―、庭に立っていたのは待ち人ではなかった。
「景福?」
夕陽が景福の横顔を照らしている。
少年期特有のほっそりしたしなかやな骨格をしているものの、香花よりはもう拳一つ分くらい高い身の丈や、少しずつ筋肉のつき出した腕などを見ると、彼が早くも少年から青年期の逞しさを身につけ始めていることが判る。
眼前の少年は、まさに子どもから大人への過渡期の真っ只中にいるのだ。
だが、夕陽の色に染まった景福の表情は沈んでいた。
刹那、香花の胸に嫌な予感が走った。
こんな幸せが長く続くはずがない。誰かがどこかで囁く。
「景福、一体、どうしたの? 何があったの?」
香花が急き込んで問いかけると、景福がその場にくずおれるように膝をついた。