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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第12章 半月

「一座は明後日(あさつて)にはこの町を離れて、次の町へと発つことになっているんだ。だから、サヒョン親方も気前よく休みをくれたのさ」
 景福が冴えない顔で言った。
 午後から昌福の姿が見えないのは知っていたが、大方、午前中の興行を終えた後、大道具類の手入れをしていた景福を待ちきれず、一人で出かけたのだとばかり思っていた。
 漸く異変に気付いたのがつい半刻ほど前。一人で出かけたにしては、やけに帰りが遅いと思った景福はミリョンや母恵京にも話し、二人で心当たりを方々探した。
 だが、結局、昌福は見つからなかった。
 親方も事情を聞き、これはただ事ではないと判断して、総勢二十人の座員すべてを動員して、町中を探し回ったにも拘わらず、昌福はどこにもいなかった。
「まさかとは思うけど」
 景福は昏い声で呟いた。
 その先は言葉にせずとも、判った。
 香花の脳裡にもその時、昌福に異常な執着を見せていた両班の脂ぎった顔が浮かんでいたからだ。

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