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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第13章 十六夜の悲劇

 十六夜の悲劇

 とりあえず三人は町に向かった。景福は一旦、一座に戻った。もしや昌福が戻っているのでは―と儚い期待を抱いていた香花は、いたく落胆することになる。気を取り直して座員と手分けして再度昌福を探すことにし、香花と光王は二人で独自に捜索を始めた。
 既に陽はすっかり落ち、群青色の空に十六夜の月が浮かんでいた。月が燃えるように紅い。美しいといえばいえる眺めだが、紅く染まって煌々と地上を照らす月は、どこか禍々しさを秘めているような気がしてならなかった。
 あまりに美しすぎるものには魔が潜んでいる―と、まだ幼かった香花に真顔で話してくれたのは叔母香丹であったかもしれない。極めて現実的に見える叔母は、あれでなかなか迷信深い一面を持っているのである。
 香花は胸騒ぎを憶え、傍らの光王に話しかける。
「光王、昌福は、どうしちゃったのかしら」
 何か話していないと、不安に押し潰されそうになってしまう。
 景福と共に一座のいる町中まで行った二人は、いつしか町の外れまで戻ってきていた。

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