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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第13章 十六夜の悲劇

 と、光王の歩みが止まった。
「待て」
 光王が手でゆく手を制する。香花は眼を瞠り、光王を見た。
 光王が片手を上げたまま、顎をしゃくった。
 その瞳がわずかに眇められている。獲物を見つけた猛禽のような鋭い双眸が油断なく光っていた。
 光王は数歩進んだところで、しゃがみ込んだ。そこは道端で、例のピンク色の小花が群れ咲いている場所である。野原とまではいえないが、子どもたちが昼間、鬼ごっこをして遊ぶ程度の広さには十分だ。花の他にも雑草が丈高く生い茂っていて、明るい月の下でも草むらの中までは見通せない。
「―酷いことをしやがる」
 光王は生い茂った草をかき分けている。
 その手許を覗き込んだ香花は悲鳴を上げた。
「光王、昌福が、昌福が!」
 可憐な薄紅色の小花に囲まれるように、昌福の小さな身体が横たわっている。丁度、草に隠れて人眼にはつかない場所だ。しかも、こんな町外れの昼間でも殆ど人通りがない場所である。夜ならば、尚更、犬の子一匹さえ辺りには見当たらなかった。

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