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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第13章 十六夜の悲劇

 香花の眼から、とめどなく涙が流れ落ちた。
 そっと手を伸ばして触れてみると、昌福の頬はゾッとするほど冷たかった。それが既に昌福の生命がこの肉体から出てしまったことを何より物語る。
 それでも、香花は黙って昌福のすべらかな頬を撫で続けた。
 いかほど経っただろう。香花がふと我に返ったのは、変わり果てた昌福の姿を見たミリョンの凄まじい泣き声によってだった。
 二度と眼を開かぬ我が子を見た瞬間、恵京は気絶し、その母を支え、景福は怒りと哀しみに打ち震えながら物言わぬ弟をひたすら凝視していた。
 十六夜の妖しく輝く夜、都からはるか離れた地方の町で、一人の子どもの生命が不条理に奪われた―。

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