
月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第2章 縁(えにし)~もう一つの出逢い~
「私なら、もう大丈夫です。桃華さまがずっと看病して下さいましたから、ぐっと良くなりました。それよりも、旦那さま、林明さまをお叱りにならないで下さい。あのことは、私も悪かったのです。私の考えが浅く、林明さまに不愉快な想いをおさせしてしまったことがすべての原因でした。それゆえ、どうかもう、林明さまをお叱りにはならないで」
「しかし―」
明善は憮然として黙り込んだ。
「判った、先生がそこまで仰せなら、今回はもうこれ以上は言うまい。桃華、これから父の部屋に参り、そなたから何があったのか聞かせてはくれぬか」
「はい」
桃華が頷き、明善と二人で部屋を出てゆく。
林明は一人取り残され、居心地が悪いらしい。膝を抱えて座り込んだまま、うつむいて顔を上げようともしない。かと言って、出てゆくわけでもなく、身じろぎもしない。
「坊ちゃん」
そっと呼びかけると、小さな身体がピクリと震えた。
「もう気にしないで下さいね」
敢えてそれだけを言うと、林明が弾かれたように顔を上げた。その瞳に宿った涙を見て、香花は胸を衝かれる。
大粒の涙がぽろり、と白い頬を転がり落ちる。
「旦那さまに申し上げたように、私も悪かったのです。坊ちゃんのお気持ちも考えず、私が出すぎたことをしたから、坊ちゃんがお怒りになったのですもの」
家庭教師の身で再々、主人の部屋に出入りし、長い時間、語らったりするのは、その立場にふさわしいふるまいとはいえなかった。ましてや、屋敷内には桃華や林明という感じやすい年頃の子どももいるのだ。身の程をわきまえなかった香花に責任がある。
「違―う」
「しかし―」
明善は憮然として黙り込んだ。
「判った、先生がそこまで仰せなら、今回はもうこれ以上は言うまい。桃華、これから父の部屋に参り、そなたから何があったのか聞かせてはくれぬか」
「はい」
桃華が頷き、明善と二人で部屋を出てゆく。
林明は一人取り残され、居心地が悪いらしい。膝を抱えて座り込んだまま、うつむいて顔を上げようともしない。かと言って、出てゆくわけでもなく、身じろぎもしない。
「坊ちゃん」
そっと呼びかけると、小さな身体がピクリと震えた。
「もう気にしないで下さいね」
敢えてそれだけを言うと、林明が弾かれたように顔を上げた。その瞳に宿った涙を見て、香花は胸を衝かれる。
大粒の涙がぽろり、と白い頬を転がり落ちる。
「旦那さまに申し上げたように、私も悪かったのです。坊ちゃんのお気持ちも考えず、私が出すぎたことをしたから、坊ちゃんがお怒りになったのですもの」
家庭教師の身で再々、主人の部屋に出入りし、長い時間、語らったりするのは、その立場にふさわしいふるまいとはいえなかった。ましてや、屋敷内には桃華や林明という感じやすい年頃の子どももいるのだ。身の程をわきまえなかった香花に責任がある。
「違―う」
