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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第13章 十六夜の悲劇

 これは後になって景福から聞いた話だけれど、ミリョンは数年前に同じ一座の若い男と所帯を持ったことがあるそうだ。しかし、男は苛酷な旅芸人の日々に堪えられず、ある夜、そっと姿を消した。その時、ミリョンは既に良人の子を身ごもっていたが、心身に受けた傷があまりにも深く、結局、流産してしまったという。
 そんなこともあって、ミリョンは座員の子どもを我が子のように可愛がっていて、その中でもとりわけ昌福には眼をかけていた。
 昌福の弔いから三日が経った。
 その朝、香花はいつものように近くの川で洗濯をしていた。光王は既に町へ商いに出かけている時間だ。
 洗濯物を棍棒で叩いて汚れを落とすのも、なかなか根気と体力の要る作業である。
 漸くひと仕事終え、香花が洗濯物を載せた籠を〝よいしょ〟とかけ声をかけて持ち上げようとした時、ひょいと脇から誰かが籠を持ってくれた。
 愕いて顔を上げた香花に、景福が静かな笑みを湛えて立っていた。

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